はじめに
相続は誰にとっても避けては通れないテーマである。身近な家族や親族が亡くなった時に初めて直面する人も多く、「相続財産は平均してどのくらいなのか?」という疑問を持つ人は少なくない。実際に報道などで「相続税は富裕層にしか関係がない」と耳にすることもあれば、逆に「相続は必ず税金がかかる」と誤解しているケースもある。
本記事では、国税庁や総務省統計局といった公的機関のデータを引用しながら、相続財産の平均額やその内訳、課税の有無、さらには実際に多くの家庭が直面する金額感について詳しく解説していく。
相続財産の平均額(令和5年分データ)
国税庁が公表する「令和5年分 相続税の申告事績の概要」によると、課税対象となった相続財産の1件あたりの平均額は 約1億3,891万円である。令和4年分の1.6億円からやや減少したものの、依然として高額であることに変わりはない。この数字を聞くと「そんなに多額の財産を残す人はごく一部では?」と思う人もいるだろう。その通りで、この統計はあくまで相続税の申告が必要になったケース、つまり基礎控除を超える規模の相続だけを対象としているためである。


課税対象の平均が1億円を超えるのは驚きだが、多くの家庭には当てはまらない。前提条件を理解してデータを見ることが重要である。
相続財産の内訳
令和5年分の国税庁統計によると、相続財産の構成は以下の通りである。
- 現金・預金等:約35.1%
- 土地:約31.5%
- 有価証券:約17.1%
- 家屋:約6%
- その他:約10%
現預金が最も大きな割合を占め、不動産(土地+家屋)が約4割近くを占めている点も特徴である。従来は土地の比率が最も高かったが、近年は現預金の割合が高まり、資産構成が徐々に変化していることがわかる。


不動産の比率が依然として高いが、現金比率が上昇している点は注目すべき変化である。相続の流動性や分割のしやすさに直結するポイントである。
相続税が課税される割合
令和5年分のデータによると、相続税が課税されたのは全体の 約9.9%である。つまり、10人に1人弱しか相続税を支払っていない。基礎控除は「3000万円+600万円×法定相続人の数」と定められており、例えば配偶者と子供2人が相続人の場合は4800万円までが非課税となる。この控除が多くの家庭をカバーしているため、9割以上の家庭では相続税の負担が発生しないのが実態である。


相続税の対象は限られた層にとどまる。ただし一度課税対象になると金額が大きく、準備の有無で大きな差が生じる。


実感としての相続財産の水準
では、課税対象外の相続も含めた「一般的な家庭の相続」はどの程度か。総務省統計局が実施する「全国消費実態調査」や「家計調査」によれば、高齢世帯が保有する金融資産の中央値は約1000万円台、平均で2000万〜3000万円程度とされる。
さらに自宅不動産を加えると、相続財産の合計は数千万円規模になることが多い。国税庁の統計に基づく「平均1.3億円超」という数字はあくまで一部の家庭に限定された値であり、実感値とは大きく乖離している。


メディアで紹介される「平均額」だけを見ると現実とのズレがある。中央値や非課税の実態を合わせて見ることが不可欠である。
相続財産に関する注意点
不動産の評価
不動産は市場価格と税務上の評価額が異なる。路線価や固定資産税評価額を基準とするため、場合によっては想定以上に高い評価がつき、相続税負担が増すケースもある。
預貯金の凍結
相続が発生すると被相続人名義の預貯金は凍結される。相続人全員の同意がなければ引き出せず、葬儀費用や生活費の確保に困ることもあるため、事前の理解と準備が求められる。
相続放棄と限定承認
相続財産はプラスだけではなくマイナスも含まれる。借金が多い場合には家庭裁判所に相続放棄を申し立てることが可能だ。また、プラスの範囲でマイナスを相殺できる「限定承認」という選択肢もある。


相続はプラスもマイナスも受け継ぐ。財産の内容を冷静に把握し、必要なら相続放棄も検討すべきである。


まとめ
令和5年分の国税庁統計によると、課税対象相続の平均額は約1億3,891万円であり、相続税が課税される割合は約9.9%にとどまる。相続財産の内訳は現金・預金が最も多く、次いで土地、有価証券が続く。とはいえ、実際に多くの家庭で相続される金額は数千万円規模に収まることが多い。数字の平均値に惑わされず、自身の家庭に当てはめて考えることが重要である。さらに不動産評価や預金凍結、マイナス財産への対応といった実務上の注意点も踏まえて、早めの準備を心掛けたい。

