はじめに
「人生の終わりに後悔しないお金の使い方」をテーマにした名著『DIE WITH ZERO』は、FIREを目指す人間にとっても非常に示唆に富んだ一冊である。本記事では、本書の内容を整理しつつ、実生活にどう落とし込めるかを深掘りしていく。
著者であるビル・パーキンスは、米国のヘッジファンドマネージャーとして成功を収めた人物でありながら、「資産の最大化」よりも「人生の経験の最大化」を説く。これは、単なる節約術や投資術の本ではなく、生き方そのものを問い直す哲学書であるとも言える。
「ゼロで死ぬ」とはどういうことか?
本書のタイトル「DIE WITH ZERO」は、「死ぬときに資産が残っていない状態」を理想とする生き方を意味している。多くの人は老後が不安だからという理由で資産を蓄えるが、著者は「過剰な蓄財は人生の機会損失を招く」と警鐘を鳴らす。
なぜなら、人生には「お金を使って最大限に価値を生み出せるタイミング」が存在するからである。例えば、20代でのバックパッカー旅行は人生観を変えるほどの経験になるかもしれないが、同じ旅行を70代で行っても身体的制約が多く、得られる感動は薄れる。
したがって、最も重要なのは「自分の年齢と健康状態に応じた適切なタイミングでお金を使う」ことである。


人生のピークに資産を使わなければ、結局は使い残して終わる可能性が高い。
FIRE民との親和性と相反性
FIRE(Financial Independence, Retire Early)を目指す人々にとって、この本の主張は一見すると矛盾しているように思える。なぜなら、FIREとは資産の最大化と早期退職をゴールとするムーブメントだからだ。
しかし、両者の本質は決して矛盾しない。むしろ「人生の自由な時間を最大化する」という意味では、非常に親和性が高い。
問題は、FIRE達成後の「お金の使い方」にある。FIRE後も浪費を恐れすぎて資産を使わず、結局人生を楽しめない人が多い。その点で『DIE WITH ZERO』は、「FIRE後の指南書」として読むこともできる。


FIREはゴールではなくスタート、だからこそ“ゼロで死ぬ”という視点が重要になる。
「人生経験の最大化」という概念
著者は「お金は人生経験を買うための道具である」と述べている。つまり、物を買うよりも、旅行や趣味、家族との思い出作りといった「経験」にお金を使うべきだと説く。
特に印象的だったのは「メモリーディビデンド(記憶の配当)」という概念である。これは、ある経験を通じて得た記憶が、その後の人生で何度も想起され、幸福感をもたらすというもの。
たとえば、30代で親と一緒に海外旅行に行った思い出は、40代以降も何度も語られ、写真を見返すたびに幸福を感じられる。まさに時間とお金を使って得られる「資産」と言えるだろう。


人生の早い段階での経験は、その後の人生全体に渡って利息を生む投資となる。
「健康の価値」を見誤るな
本書では、時間・お金と並んで「健康」が三大資源のひとつとして繰り返し強調される。特に「健康な時期にしかできないことを見極め、そこに投資せよ」という主張はFIRE実践者にも重く響く。
著者は「80歳で世界一周旅行を計画しても、実現は困難だろう」と言う。実際、年を重ねるごとに体力・気力は衰え、行動の自由度が減っていくのは明らかである。
つまり、「健康資産」を最大限活用できる時期にこそ、経験にお金を投じるべきだというわけだ。これは医療費や老後資金を減らせという話ではない。むしろ「健康なうちに経験に投資しよう」というポジティブなメッセージである。


健康は“今この瞬間にしか使えない資産”であると認識しておこう。
子どもへの相続は“前倒し”せよ
日本でも話題になる「生前贈与」だが、本書では「相続は遅すぎる」として、早期の資産移転を推奨している。
特に印象的だったのは、「子が40歳になってから1,000万円もらうよりも、20代で300万円もらうほうが、人生に与えるインパクトは大きい」という指摘である。
この考えは、遺産というものが必ずしも“老後の保険”ではなく、“人生の加速装置”として活用できる可能性を示唆している。
もちろん、日本の相続税制や生活文化とはズレがあるかもしれない。しかし、「資産は早めに使わせてナンボ」という考え方は、人生設計において大いに参考になる。


子どもや大切な人が本当に必要としている“その時期”を見極めて渡すことが重要。
FIRE達成後にどう読むべきか
FIREを達成した後こそ、この本は真価を発揮する。なぜなら、FIRE後の生活では「お金の使い方」にこそ個性が出るからである。
資産を取り崩すことに不安がある人は多い。しかし『DIE WITH ZERO』は、「使う勇気」を与えてくれる本だ。
著者は、後悔とは「やったこと」よりも「やらなかったこと」の方が、あとになって強く残ると語っている。これはFIRE達成者が「節約グセ」から抜け出せない問題に対して、大きな気づきを与えるメッセージである。


FIRE後の“迷い”に対する最良の解毒剤、それがこの本である


まとめ
『DIE WITH ZERO』は、「お金を使い切る」という一見ラジカルな考え方を通して、「人生の価値とは何か」を深く問いかけてくれる一冊である。
FIREを目指す者にとって、あるいはすでにFIREを達成した者にとっても、「貯める」だけでなく「使う」ことの意味を再考するきっかけになる。
本書を読み終えたとき、残高をゼロにすることがゴールではなく、「思い出」と「幸福感」が最大化された状態で死ぬことこそが、真のゴールであると気づくはずである。


